はじめに.
大学入試はご存知の通り、その仕組みが複雑なだけでなく、対策も大学・形式によって異なるものであり、大学進学を目指す高校生にとってはイメージが作りにくいものであります。その複雑さから、「良くわからない」「その時になってから考えればいいや」などと、自分の進路について考えるのがついつい億劫になってしまい、問題を先延ばしにしてしまう高校生を多く見かけます。一方で、大学受験を考える段階で「私は総合型選抜で受験するので一般選抜の対策はしない」などと、一つの方式での受験だけに視野を向けてしまう生徒も見かけます。一見、自分の進路をしっかりと考えているように見えますが、果たして正解なのでしょうか。
有名な経営学者ピーター・ドラッカー氏の言葉に「常識や思い込みは疑ってかかれ」という言葉があります。皆さん、「周りがみんな同じだから」などといった理由から、ある事柄が本当かどうかあまり確かめないことって、意外と多くないでしょうか。本稿では、大学受験に長年携わってきた筆者の経験から、陥りがちな大学受験に対する考えかたについて、危険な点を解説してゆきたいと考えています。何が起こるかわからない大学受験。細心かつ最大の努力をして立ち向かいましょう。受験対策で最も大切なのは「予測と準備力」です。
高3の11月までは!
(1) 合格っていつ決まるの?
一般選抜の合格発表は、高校卒業を間近に控えた2月や3月であることは想像できると考えますが、総合型選抜や学校推薦型選抜の合格発表時期を正確にご存知でしょうか。近年の大学入試改革前は、AO入試(現在の総合型選抜)などは早い大学では8月や9月から入試が行われ、すぐに合格発表が行われていました。しかしながら、早期に合格発表を行うことによって早々と進路が決まってしまった高3生が学習意欲を無くしてしまうなど、AO入試で合格を決めた学生の学力低下などが問題視されるようになったのです。
そのため、大学入試改革が行われた際にAO入試は総合型選抜と名前を変えただけでなく、入試時期と合格発表時期が後ろ倒しになりました。現行の大学入試では原則として総合型選抜は出願が9月1日以降、そして合格発表は11月1日以降に設定するように変更されたのです。同時に、公募制推薦や指定校推薦などの学校推薦型選抜については、出願が11月1日以降で合格発表は12月1日以降に設定されることになりました。すなわち、総合型選抜や学校推薦型選抜を受験した場合であっても、少なくとも11月にならないと進路が確定しないということになったのです。冒頭に書きましたが、「私は総合型選抜で受験するので、一般選抜の対策はしない」といった考えで過ごしていた場合で、もし入試結果が振るわなかった場合・・・、どうなるか想像できるでしょうか。
試験日程が重複しない限り複数の併願が可能な一般選抜と異なり、総合型選抜や学校推薦型選抜は合格の場合は入学しなければならない「専願型」である場合が多く、併願プランを組みにくい入試方式なのです。つまり、仮に入試結果が振るわない場合はそこから新たな受験校を探したり、最悪の場合は一般選抜の受験へ舵を切ったりしなければならない場合もあるのです。
11月や12月から一般選抜に舵を切ることになった場合、そこから情報収集をしなければならないだけではなく、早い段階から一般選抜に向けて受験勉強を始めていた他の高3生と大きな後れを取ることになるのです。このような状況になってしまったら、一般選抜までの残りの期間に相当以上の努力をしなければならないか、または志望校のレベルを落とさなければならないなんて事態にすら陥ってしまう可能性があるのです。そうならないためには、どうすればよいのかを引き続きお話しさせてもらいます。

(2) 受験を見据えた高校生活の過ごしかた
ここまでの話を読んで、薄々感じている読者も多いのではないのでしょうか。では、単刀直入にお話しします。総合型選抜や学校推薦型選抜での受験であっても、大学進学を考えるならば少なくとも高3の11月までは一般選抜を含めた受験に対応できるように準備をしておかなければならないと考えましょう。つまりは、一般選抜を受験するつもりはなくても、受験勉強を総合型選抜や学校推薦型選抜の対策と並行して進めておかなければ、「いざ」という時に全く対応できなくなってしまうのです。「一般選抜は受験しないのに受験勉強か・・・」などと、モチベーション維持はなかなか難しいかも知れません。また、一見大げさな考えかたに思えてしまう人もいるでしょう。しかしながら、何が起こるかわからない大学受験、起こりうるトラブルを予測して対応できる準備を怠らないことが、最終的に志望校へ合格するための道標となるのです。
続いて、「いつからどう受験勉強を始めればいいの?」という質問が予想されますので、早速お答えします。本稿を読み終えた、その時から動き始めましょう。自分が行きたいと考えている大学のホームページにアクセスして、入試情報を確認してみてください。一般選抜のページに、入試で必要な教科・科目が掲載されているはずです。また、「行く大学や学部が全然決まっていない」という人、理系なら英語と数学を、文系なら英語と国語の勉強に力を入れましょう。それすらも決まっていないならば、英語だけでも構いません。そして、なぜ今すぐなのか理由は簡単です。総合型選抜や学校推薦型選抜の試験は10月や11月に実施されるわけですから、夏休みに入る頃から入試科目である小論文の勉強や志望理由書の作成、面接対策などの入試対策で忙殺されるようになります。すなわち、夏休み頃からは一般選抜の受験勉強をする時間がより限られてしまうことが予想されるのです。
何事も、準備をするのに「早すぎる」ということはありません。高1でも高2でも、早くから準備をしておくことによって、選択肢が増えて自分の可能性が高まります。むしろ、成績が向上したことによって自分が考えていた志望校よりも、さらに上のランクの大学へ志望校を上方修正することも可能になる事例すらあります。逆に、いつまでも立ち止まってゆくと、先に進むことができません。動き出しが遅くなれば遅くなるほど、できることが少なくなってしまい選択肢が減ってゆきます。時間は減る一方で、増えることはありませんからね。そして、失った時間は2度と返ってくることはありません。今を大切にして、先を見据えて行動することが、何事も肝要なのです。

おわりに.
読んでいただいて、どのように感じたでしょうか。一般選抜で受験することは考えていないのに、受験勉強をしなければならないことに対する抵抗は強いと考えます。また、部活動やアルバイトをしている人にとっては「そんな時間は作れない」と戸惑ってしまうかも知れません。誤解しないでいただきたいのは、定期考査や部活動を犠牲にしてまで受験勉強しろと主張しているわけではありません。本来自分が考えている受験方式の対策を一番に考えたうえで、可能な限り一般選抜も見据えてほしいと考えています。なぜなら、意識しているのか意識していないのかでは日常の過ごしかたが変わるのではないでしょうか。例えば、一般選抜で使うかもしれない科目の勉強に力を入れたり、家庭学習の時間を見つけて勉強時間を増やしたりと・・・、考えかたや行動に少なからず変化があるはずです。
当然、一般選抜しか考えていない人は、精一杯受験勉強に励みましょう。本稿が「大学受験はするけれど、一般選抜は考えていない」という人にとって、本稿が大学受験に対する考えかたや見かた、そして態度が少しでも変わって貰えたら嬉しい限りです。
【コラム】~指定校推薦枠の発表時期~
指定校推薦での受験を考えている人も多いのではないでしょうか。ここで気になるのは指定校推薦枠の発表時期ですよね。推薦枠の発表時期は通学する高校によって様々ですが、どんなに早くても、1学期の期末考査の終了後です。高校によっては、学習意欲の低下を防ぐために、夏休み終盤時期まで推薦枠の発表を伸ばす高校もあります。
また、指定校推薦枠は「生もの」で、昨年あった枠が今年も同様にあるとは限りません。指定校推薦枠は大学から分配されるものですから、大学の都合によって削減される可能性も大いにあります。「〇〇大学の指定校を狙っていたのに、枠が削減されている!」という話を聞くことも、決して珍しいことではありません。
こうした不測の事態が起きてしまっても動揺しないように、やはり一般選抜の受験を想定した行動は大切なのです。