
今月の教室通信では、アメリカの学習科学・発達心理学の第一人者であるキャシー・ハーシュ=パセックらによりまとめられた書籍「科学が教える、子育て成功への道(扶桑社)」の要約をご紹介します。
この著書の中で『6つのC』というスキルを育てることが重要であると提示されていますが、これらのスキルは子どもだけが身につけるべきものでは決してなく、教育者である『親』,周りを取りまく『大人たち』もしっかりと身につけるべき能力なのではないかと思います。
21世紀における、子育ての「成功」とは何か
よく言われていることであるが、これからの時代で何か物事を成し遂げることができる人間は「思考スキル」を持った人間なのである。どれだけ事実を覚えたかで評価するといった、今までなされていた教育方法は完全に時代遅れである。
これから特に必要となる「思考スキル」を身につけさせるために、「思慮深く、思いやりがあり、他者とかかわって生きる、幸せな子供を育てること」が、教育において子どもにかかわるすべての大人が共有すべき目標である。
この目標達成こそが、子育てにおける「成功」であり、そうやって育った子どもが他者と協力して、自分の能力を存分に発揮して責任感ある市民となり社会を活性化するのである。それでは、こうした目標達成のために子どもたちが身につけるべきスキルはどのようなものがあるのだろうか。
テストによって簡単に測定可能な学力は「ハードスキル」、それ以外のスキルは「ソフトスキル」と呼ばれる。ソフトスキルとして定義されるものは以下のものがある。
・適応力 ・自立性 ・コミュニケーション能力
・想像力多様な背景への気付き ・共感力
学習科学の研究と実験では、ソフトスキルはとても重要で、先に挙げたハードスキルも、ソフトスキルの基盤なくして身につかないことが明らかになっている。
ハードスキルとソフトスキルの融合のため、「6つのC」を伸ばす教育を行わなければならない。「6つのC」とは以下のことである。

『6つのC』の養い方
・コラボレーション(Collaboration)
コラボレーションとは、共同の作業・活動のことを指す。これは、人が学び、課題を達成し、パフォーマンスを向上させる上で本質的な役割を果たす。能力が異なる人が手を組めば、お互いに足りない部分を補い合って素晴らしい仕事をすることができるのだ。
ひとつの作業をどのように進めるかを会話でやり取りをしながら協力することは、競い合って誰か一人を勝者として選ぶよりも多くのスキルを学ぶことができる。自分からは出てこない他人の意見を聞くことで、問題解決のためには他者に注意を向ける必要があることを知るだろう。
子どもは「助けあう必要性」に気づいたとき、互いに協力する段階へと移っていく。このスキルを身につけさせるために大人がすべきことは、その「助け合う必要性」に気づく機会を与えることである。
・コミュニケーション(Communication)
コミュニケーション能力を高めるためには、以下の過程を経ることになるだろう。

1のレベルのコミュニケーション能力段階ならば、感情がむき出しになったときを逃さず親や大人が関わらなければならない。そして、別の考えに気づかせたり、怒りの感情を表す言葉を使うように促したりすることで、感情をコントロールしたり、適切に表現することを教えるのだ。
2のレベルのコミュニケーション能力段階では、誰かが話をするときは聞き役に徹するといったトレーニングを意識的に積ませるようにさせる。これらを指導するためには、まず我々大人が、子供との対話中にスマートフォンを閉じておくことが必須となるだろう。
これら1~3の過程を経たうえで、コミュニケーションする際の量や質、トピックの関連性や相手を考えた作法にまで配慮できると、非常に高度なコミュニケーションが成立する。
・コンテンツ(Contents)
コンテンツは、今までの学校教育の中で最も重要とされている「知識」と言い換えることができる。知識コンテンツは問題を解決するために非常に大切なものだ。
子どもが知識を身につけるために何より大切なのは、モチベーションである。深い学びを得るためには、率先して行動し、没入して関与し、意味を見出すことが条件になるのだ。そのため、まずは、いろいろなものに興味を持てるよう、大人が子どもを導く必要があるだろう。
大人がするべきことは、子どもが興味を持ったことについて一緒に語り合い、答えを見つけるためにインターネットや本を使う姿を見せることだ。子どもがどのように学んだらよいかという手本となり、生涯学び続ける姿勢を示すことが重要である。
・クリティカルシンキング(Critical Thinking)
クリティカルシンキングとは、目の前にある事象や情報を鵜呑みにせず、まずは「それは本当に正しいのか」と疑問を持ち、じっくり考察した上で結論を出すことをいう。この情報爆発時代を生き抜くためには、膨大な情報を吟味・精査して、妥当な判断を下していかなければならない。そのためにクリティカルシンキングの力が必要なのである。
クリティカルシンキングのスキルは、安易に結論にたどり着くのではなく「疑問が出なくなるまで自問し続ける」ことによって磨かれる。ある問いかけに対して子どもが答えを出したとき、なぜそのように考えたのか、大人が根拠を尋ねるようにしよう。それが習慣化することにより、理論立てて結論を出し、物事を正しく判断する方法を習得することができる。
クリティカルシンキングを育てる環境を作るためには、子供が素直に「なぜ」と口にできるよう、子供の素直な問いかけに真剣に向き合う姿勢が重要になる。日々の何気ない問答の積み重ねこそ、クリティカルシンキングの力を育てるための必須条件である。
・クリエイティブイノベーション(Creative Innovation)
私達の経済の仕組みは、伝統的な産業から、個人として、また集団として創造性を発揮しなければ成り立たない形へと移り変わった。創造的になるには、現状の物事のあり方をそのまま捉えない、枠の外へ一歩踏み出す力が必要である。
今、世界で何が起きているのか、目に見えて明らかなことだけに囚われず、どんな可能性があるのかイメージを膨らまさなければならない。
創造的になるためには、従来のやり方を一度捨て、新たな方法を模索するというリスクがつきものだ。子供が何かを思いついてチャレンジしようとするとき、親の方が失敗を恐れてそれを制止するようなことがあってはならない。「しなければならないこと」から解放されて、自由に考える場を与えられたとき、子供は創造性発揮への第一歩を踏み出すことができるのだから。
現在の教育スタイルは、子供の創造性を伸ばすものとは考えがたい。しかし、家庭で日常のちょっとした創造性を大切にすることで環境は改良できる。まずは、私達大人自身が時間的にも精神的にも余裕を持ち、現状を異なった角度から眺めようとする姿勢を子供達に見せ、自由に想像し、創造することを面白がるところから始めよう。
・コンフィデンス(Confidence)
コンフィデンスとは「自信」のことである。
認知的に未発達段階の子どもは、闇雲に挑み続けるという自信を持っているのだが、成長とともに、自分の実力を他者と比較するようになったり、失敗したときのリスクを考えたりするようになり、チャレンジすることが難しくなっていく。
それを防ぐためには、大人が『励まし、あきらめない姿勢を称賛する』必要があるのだ。結果や能力ではなく、努力する姿をほめることで子どもは自信を持つ。そして、失敗を繰り返しながら成功までたどり着くスキルを手にするだろう。
コンフィデンスとは、成功体験の積み重ねにより生まれた「自信」のことではない。「試してみようという意思であり、粘り強く続けようとする意思であり、失敗を恐れない精神」のことを言うのだ。
自信のある子どもは失敗を恐れない。何度も試し、考え、問いを出し、失敗することが当たり前を思えるようになっているからだ。そして、失敗を通じてこそ、どうしたらうまくいくのかの発見ができることをよく知っているからだ。
家庭で、地域で、学校で『6つのC』を実践しよう
『6つのC』の全てのスキルは密接につながりあっている。
コミュニケーション能力はコラボレーションすることで高まっていく。読んだり書いたり、語ったりするコミュニケーションができることで、コンテンツを学べる。
クリティカルシンキングの力によってコンテンツの信頼性が左右され、十分なコンテンツとクリティカルシンキングをする力が合わされば、クリエイティブイノベーションが実現できる。
コンフィデンス(自信)は、コンテンツ、クリティカルシンキング、クリエイティブイノベーションのすべてを支えている。
そして、『6つのC』は段階的にではなく、互いに絡まりあいながら螺旋を描いて伸びていく。
このような『6つのC』は、学校的環境だけで学ぶことは難しい。学校外では「遊び」を通じてこれらを養うことができる。遊びと教育は一体のもので、両方がうまく結びつくことが重要なのである。
「遊び」を通じた学びには二種類のものがある。一つは、子供が自由に遊ぶ「フリープレイ」による学びであり、もう一方は大人に「ガイドされたプレイ」による学びである。後者は、大人が一緒に遊ぶことを通して、子供の興味や関心を探り、子供の問いに反応し、子供が知りたいと思っていることを語り、子供が問いを追求していくのをサポートする。
この二種類の遊びによる学びはアクティブに人が学ぶ環境を作りだす。6Cを手がかりに、学校だけでなく家庭や地域での「遊び」を通して、より価値のある教育環境を作り上げよう。
