【9月 教育支援通信】
マインドセット

マインドセットとは?

マインドセットとは、経験、教育、先入観などから形成される思考様式、心理状態。
暗黙の了解事項、思い込み(パラダイム)、価値観、信念などがこれに含まれる。

MBA用語集より

 今月の教室通信では、スタンフォード大学にて教育心理学者として教授職に就いているキャロル・S・ドゥエック氏の著書「マインドセット」をご紹介します。

 ここに書かれている内容は、ウィル個別指導教室に通塾している子どもの多くにあてはまり、またこの記事を書いている私自身にもあてはまる部分がありまして、ぜひ皆様にもお伝えしたいと思い、教室通信にて採り上げさせていただきました。

 特に、高校入試などの失敗による挫折から立ち直れていない子どもは以下で紹介する「硬直マインドセット」に陥っている場合が多いので、我々周囲の大人がそこから救い出さなければなりません。

2種類のマインドセット

 同じような能力を持っていても、一度の失敗で諦めてしまう人と、失敗も自分の糧であると受け入れて次につなげる人がいる。これは、困難課題に取り組む気持ちの持ち方には2パターンがあるからなのだ。

硬直マインドセット

<思考の基本>人の能力は生まれながらのもので変えられない。

* “今”の評価(賞讃)のために行動し、チャレンジするよりも、今をうまく乗り切る方法を見つける。
* 自分が安心するために、人の足を引っ張り、自分より出来の悪い人間を探す。
 これにより自らの可能性をとめてしまう。

しなやかマインドセット

<思考の基本>人の能力は成長していく。

*“まだ”と考えて挑戦することで、変化発展していくと考える。
* 難しい問題を解く“プロセス”を楽しみ、すぐに結果が出なくても成長に感謝しながら、目標に向かう。

 人間の資質は変わらないと考えている「硬直マインドセット」の人は、最初に配られた手札だけで戦っているようなものだ。そのため失敗を受け入れられなかったり、自分を必要以上に大きく見せたいという気持ちが生まれたりする。

 その一方で、人間は成長しつづけられると信じる「しなやかマインドセット」の人は、失敗も成長に必要なこととして受け入れ、自分の現状についても正しく受け止められることが多い。

「硬直マインドセット」は他人からの評価に、「しなやかマインドセット」の人は自分を向上させることに興味をもっているといえよう

「しなやかマインドセット」の人は、挑戦を楽しみ、試行錯誤を続ける。問題が解決できなくても、そこから何かがわかることを喜びとする。少しでも前進し、能力を開発することの大切さを知る。困難にも真剣に取り組み、「まだ」の気持ちで、じっくり取り組んでエラー処理をする。そして、間違いから学習して修正していく。

「硬直マインドセット」の人は知能に評価をつけられることに慣れて、うまくいかないことを「惨め」「最悪」などと考える。そして、解決できないことを“失敗”だと捉えて、自分にダメの烙印を押してしまう。「まだ」と考えずに、今の状態にこだわって“ダメだ”と考えてしまうのである。
 そして、「自分よりも出来が悪い“誰か”」を探してしまう。やがて、「自分はできる!」と安心するために、難しい問題を避けて通るようになる。

 科学者達が“間違い・失敗”に直面した際の脳の活動を測定すると、「硬直マインドセット」の人の脳はほとんど活動しないという。“間違い・失敗”から逃げて、対処もしないからだ。「しなやかマインドセット」の発想の人達は、間違えた問題に真剣にじっくり取り組んでエラー処理をして、間違いから学習し修正する。

どちらのマインドセットを選ぶかによって、人生は大きく変わる

 能力を固定的にとらえると、一回の結果ですべてが決まってしまうと考えがちになる。そういうマインドセットをもつ人にとって、成功とは自分の賢さを示すことであり、優先すべきは他人に優秀だと評されることだ。

 すると困難な問題からは目を背け、短期的に解決可能な課題だけに取り組む傾向が強くなる。さらには才能さえあれば努力など必要ないと考え、自分の能力を完全に発揮できなくなることも珍しくない。

 しかし能力を流動的なものだと捉え、努力こそが人を賢くすると考える人にとって、失敗は自分を成長させる糧となる。

 人はみな生まれた時点では、学ぶことが大好きだ。失敗を恐れないし、恥ずかしがったりもしない。ところが成長にともない「硬直マインドセット」が植えつけられると、たちまち失敗しないことにしか取り組みたくなくなる。そして成長が止まってしまう。

 失敗を恐れずに果敢に挑戦し、欠点があれば直そうと試みる。そんな「しなやかマインドセット」があれば、たとえ自信などなくても尻込みせず、気楽な気持ちで物事に挑戦できるようになる。

「しなやかマインドセット」にするためにできること

「テストの成績が悪くて『僕は数学の素質がない』と言ったら『僕には“まだ”数学の素質がない』と言い換えてやること。『僕にはムリだ』と言ってきたら『僕には“まだ”ムリだ』とつけ加えてみてください」とドウェック氏は話す。

 つまり、生徒たちに“まだ”と「学び続ける」という文脈をあたえることで、暗黙のうちに「成長型マインドセット」へ切り替わっていくというのだ。

 また、ほめ方も重要だ。
思春期の子供たちに非言語式知能検査のかなり難しい問題をやらせたのち、2つのグループに分けて、違うほめ方をするという実験がおこなわれた。

 一方には「頭がいいのね」と能力をほめ、他方には「がんばったのね」と努力をほめたのだ。
グループ分けをした時点では、両グループの成績はまったく同じだった。

 しかし、能力をほめられたグループは硬直マインドセットの行動を示しはじめ、反対に努力をほめられたグループはしなやかマインドセットの行動をとるようになった

 また生徒全員になかなか解けないような難問を出すと、能力をほめられたグループは「自分は頭が良くない」と感じたが、努力をほめられたグループは解けないことを失敗とは思わずに、さらにがんばらなければと考えた。

 その後、能力をほめられたグループは成績が落ちこみ、やさしい問題が出されても成績は回復しなかった。一方で努力をほめられたグループはどんどん出来がよくなり、ふたたびやさしい問題に取り組むと、すらすら解けるようになっていた。

能力をほめると生徒の知能は下がり、努力をほめると生徒の知能は上がるのだ。

人間関係もマインドセットでかわる

 マインドセットの違いによって、人間関係も大きく変わってくる。硬直マインドセットの人は、他人から拒絶されると自分の価値自体が否定されたように感じ、恨みや復讐心を抱く傾向にある。逆にしなやかマインドセットの人は、相手を許そうとし、前向きな対処をすることが多い。

 硬直マインドセットの人の根底にあるのは、「人は変わらない」という確信であり、人間関係は相性がすべてで、理解しあうのに努力は必要ないと思っている。だがしなやかマインドセットの人は相手と話し合い、理解と親密さを高めつづけていくべきだと考えている。なぜなら人は変わるものだからだ。

 良好な人間関係を築くうえでも、しなやかマインドセットは必要だといえる。

一流の子育てをしよう

 親や教育者にとっても、しなやかマインドセットは重要である。教育心理学者のベンジャミン・ブルームが120名にのぼる世界的なピアニスト、彫刻家、水泳選手、テニス選手、数学者、神経学者を調査したところ、彼らの最初の指導者はほとんどの場合、驚くほど温かくて度量が大きかった。

 難しい課題を与え、惜しみない愛情を注ぐ。もしできない生徒がいても、諦めたりごまかしたりするのではなく、その事実を子供にはっきりと告げて、向上するための積極的な計画を立てる。そうすることが、その子をいい方向へ導くとわかっているのだ。

 すぐれた教師は皆、才能や知能はかならず伸びるものだと信じている。親や教師はつい子供の才能をほめたり、結果を評価したりしがちだが、それは間違えている。子供のしなやかマインドセットを育てたいのであれば、「あなたはこれからどんどん伸びていく人間。私はその成長ぶりに関心があるのだ」というメッセージを送りつづけるべきである。

 しなやかマインドセットの根底にあるのは「人は変われる」という信念だ。それはかならずしも容易ではないし、それだけで問題がすべて解決するわけでもない。しかしマインドセットの変化は、人生の質を確実に変える。豊かな人生を送れるかどうかは、マインドセット次第だといえよう。