はじめに.
いよいよ11月に入り、受験勉強も仕上げとなる「追い込み期」に入ってゆく受験生が大半かと考えます。また、11月1日を皮切りに総合型選抜入試の合格発表も始まるため、この結果如何で一般選抜に挑戦するか否かを決定することになる受験生も少なくはないと推察します。通学する高校によっては、クラスメイトの多くが進路先を決定している状態にあり、自分と周囲との「温度差」に悩まされるといった事例も例年確認されています。このように、受験はただ目の前にある自分自身の勉強だけではなく、周囲の状況など外的要因からくるストレスにも打ち勝たなければなりません。どうか、最後まで戦い抜いて、合格をつかみ取ってください。
さて、受験勉強の追い込み期に入るにあたって、本格的な志望校対策へ入ってゆくことと推察します。そして、志望校対策で最も必要とされているのが過去問題、一般的には「赤本」と呼ばれているシリーズです。赤本は出版社の教学社が発売している『大学入試シリーズ』という各大学・学部ごとの過去問題集です。大学が独自で配布している場合もありますが、基本的には過去問演習においてはこの赤本シリーズを活用してゆくことになるかと考えます。
しかし、この赤本は過去問題をただ解くという行為だけではなく、活用方法次第によって利用価値が2倍・3倍へと膨らみ、より効率的な志望校対策が実現できるのです。そこで、本稿では受験直前期における赤本の効果的な活用方法を紹介し、一般受験を間近に控える受験生の志望校合格への後押しをしてゆきたいと考えています。
受験直前期 赤本活用方法
① 赤本を手に入れてみよう
赤本は、単なる「直前の力試し」としての過去問題集ではありません。むしろ、そのような気持ちで直前に赤本にチャレンジすると課題ばかりが見つかってしまい、かえって不安ばかりが増強してしまう可能性も否定できません。志望校の赤本は事前にしっかりと入手して、しかるべき活用をしておくことが志望校合格への第一歩なのです。まずは、志望校の過去問を手に入れることから始めておきましょう。ちなみに、赤本は第一志望の大学だけではなく、受験する大学すべてのものを可能な限り手に入れることを強くお勧めします。なぜならば、共通テストとは異なり、一般選抜は大学や学部によって問題は異なる形式で出題されるため、受験する大学・学部それぞれで全く違う対応が必要となるためです。
さて、赤本を手に入れたら早速目次を開いてみましょう。大学によって多少構成の違いはあるかもしれませんが、原則「大学情報」「傾向と対策」「問題編&解答編」という構成になっているはずです。大学・学部によって掲載年度数にバラツキがありますが、概ね5年分以上の問題を掲載している赤本の場合は問題編が別冊になっている場合もあります。まず、皆さんに目を通してもらいたいのは、問題ではなく、「大学情報」と「傾向と対策」のページなのです。
② 「大学情報」からわかること
「大学情報」のページを開くと、まずは基本情報である学部・学科情報やキャンパスの所在地が書かれたページが出てきます。そして、これらのページをめくってゆくと「入試データ」という項目に行き当たります。まずは、この「入試データ」のページから見てゆきましょう。掲載されている「入試データ」は、大学・学部・学科ごとで年度別の募集人員や受験者数と合格者数、そして実質倍率などが掲載されています。まずは、一通り倍率に目を通してみてください。自分が受験する大学がどのくらいの倍率であるのかを把握してみましょう。倍率は毎年変動する言わば予測の難しい「水物」であり、あくまでも参考値でしかなりませんが、この倍率の規模によって併願する大学数などにも影響を与えるのではないでしょうか。
そして、この「大学情報」のページで最も参考となる情報が「合格最低点/満点」です(大学によっては無掲載の場合もあります)。合格最低点を把握することによって、大まかではありますが自分が獲得すべき点数が把握することができます。前提として改めて理解して貰いたいのは、入試では合格するために試験で満点を取る必要はないということです。満点ではなくとも、合格点に達していれば入試は合格を勝ち取ることができるのです。そのため、赤本の問題演習をする際の目安として、合格最低点の把握をしてもらいたいと考えます。なお、下表に模試の判定と過去問題の得点率から読み取れる合格確率についての一覧を掲載しますので参考にしてください。
このように、合格最低点を参考として自分の志望校合格確率を知ることができるのです。例えば「合格最低点/満点」が「200/300点」であるならば、模試でいうC判定(実力相応校)は「220点」程度であると言えます。そして、B判定やA判定(安全校)は「230点」以上となることがわかります。こうして、合格最低点を把握しておくことによって、合格するための大体の目標点数が見えてくるのです。この過去問演習を行っての合格可能性の算出は、非常に重要な作業になります。たとえ、模試でA判定を取れていても、過去問題を解いて合格最低点に届かないようであれば、不合格の可能性があります。逆に、模試で「D判定」など結果が芳しくなくても、過去問題を解いて合格最低点を上回るようなことがあれば、合格可能性が高いと解釈することができるのです。模試の結果はあくまでも「模試の問題での判定」であり、「その大学の問題を解いての判定」ではありません。あくまでも、合格可能性は過去問題を解いてみての得点率で判断することをお勧めします。そのため、受験プランを考える際には、こうした「受験大学の問題との相性」も踏まえて合格可能性を割り出し、熟考すべきと考えます。
③ 「傾向と対策」からわかること
続いて、「傾向と対策」のページからわかることを説明してゆきます。「傾向と対策」のページでは、過去問題掲載年度における科目別の「大問数・出題問題形式・出題内容(単元等)」を知ることだけではなく、「試験時間・出題内容の解説・難易度・対策方法」、そしてマークシート形式なのか記述形式なのか、など多くの情報を読み取ることができます。この「傾向と対策」のページを熟読することによって、具体的な志望校の合格に向けての対策を練ってゆきましょう。
スポーツなどでは試合前に対戦相手について対策を練ってから本番に臨むことが基本ですが、受験勉強でも同じなのです。しっかり相手(入試問題の出題傾向・形式)の情報を整理して、その情報をもとにした相応しい対策を考えることが志望校合格への近道となります。こうしたことから、ある意味では志望校合格に向けた対策は「赤本に始まり、赤本に終わる」ことに尽きると言えるでしょう。赤本を十分に活用して受験勉強の仕上げに向かいましょう。
「傾向と対策」を一通り熟読し終えたら、まずは1回分の過去問題を解いてみましょう。この時は、しっかりと制限時間を守って解答し、過去問題に対して「今の自分」がどれくらいの実力なのかを、まずは測ってください。「傾向と対策」から得た知識と、実際に解いてみての感触をもとにして、追い込み期の勉強方法を決定してゆきましょう。今までの受験勉強は、主にどの大学にも合格するために必要ないわゆる「共通学力」の養成を行うための勉強でした。しかし、追い込み期では志望校の出題形式・傾向に応じた「志望校用学力」の養成を行ってゆくことが重要となります。この「志望校用学力」を養成するために必要な作業というのが、❶「大学情報」で倍率と合格最低点を知る、❷「傾向と対策」で出題形式・傾向を把握する、❸実際に1回分の過去問題を解いて志望校合格までの学力的距離を知る、ことなのです。
おわりに.
本稿では、入試直前期における赤本の活用方法について解説を行ってきました。志望校合格に向けては、赤本を活用しての計画立てが重要であることが理解いただけたことと考えます。赤本を用いて過去問題を研究することによって、「追い込み期ではどのような科目・分野を重点的に勉強しなければならないのか」ということや、「入試本番では、どの問題は必ず解けるように準備をし、どの問題は無理に時間をかけないようにするか」など、作戦を立てることができます。このように、何事にも何かに挑戦するときには必ず作戦を考えて立ち向かうことが勝利への絶対条件になるのです。赤本を手に取ったとき、ただ過去問題を解いて丸付けをするだけではなく、本稿で解説したような「最大限赤本を活かす」勉強方法を心掛けてください。
また、本稿を最後まで読んでくれた現高校1年・2年生がもしいるのであれば、今からでも早すぎることはありません。気になっている大学の赤本を書店や学校の進路指導室などで手に取って見てください。場合によっては来年度の「ストック」として購入しても良いかもしれません。受験勉強において「早すぎる」ということはありません。早いうちから受験勉強について向き合ってもらうきっかけになると嬉しいです。
最後になりますが、これから季節は冬に向かい気温が下がってゆきます。受験生の皆さんはくれぐれも体調を崩さないようお身体をご自愛ください。そして、自分の持てる最大限の力を発揮して志望校に合格できることを祈っております。