はじめに.
学習指導要領の更新によって、高校ではすべての生徒が「情報Ⅰ」の履修が必須となりました。このことによって、全高校生がプログラミング、ネットワーク(情報セキュリティを含む)やデータベース(データの活用)の基礎等について学ぶことになります。この背景には、IT技術の発展があることが一番の理由です。IT技術は、スマートフォンで遠隔操作ができるIoT(Internet of Things)家電や、AI(人工知能)による自動運転システム搭載の自動車など、我々の社会生活において切っても切り離すことができないほど身近なものになっています。そのため、社会生活を営む上では、今まで以上に情報を適切に選択・活用して問題を解決していく力が求められることになるのです。
このように、情報に関する知識を学ぶことの重要さが高まっていることから、大学においても「情報」という言葉を冠する学部・学科が非常に多く誕生し、これからも増加してゆく見込みです。同時に、こうした情報に関連する学問を学びたい意欲を持つ高校生も増加傾向にあり、過去10年間において情報系の学部・学科への志願者数は年々増加傾向にあります。これに加えて、「情報Ⅰ」の必履修化によってさらにこの傾向は高まるのではないかと予想されています。
そこで本稿では、近年注目を浴びている「情報学」についてスポットを当てたいと考え、大学で学ぶ「情報学」について解説してゆくことにいたします。情報に関する学問に興味がある生徒はもちろん、進路に関してまだ迷いや悩みがある生徒の皆さんにとって、お役に立てば幸いです。
大学で学ぶ情報学
(1)情報学は何を学ぶか?
① 情報学とは
そもそも、「情報学」と言っても、情報というのは非常にあいまいな言葉ですから、どのような内容を学ぶのかをイメージできる人は多くないのではないかと考えます。情報学は非常に領域が広い学問であり、例えば情報伝達のしくみから、情報の獲得・蓄積、さらに情報を処理し、活用されるまでといったところまで、専門領域は様々です。しかしながら、現在において非常に注目を浴びている通り、情報技術は1990年代後半から発達してきたインターネットの登場以来、社会に与える影響は大きいものとなっています。情報技術は人の意識や行動から、生命や身体、社会・文化、技術や産業、法や政策、環境や国際関係など、人間の社会活動すべてに影響を与えているものであり、情報学を学ぶことの重要性は上がり続けていると言っても過言ではありません。
ところで、情報学はコンピュータやプログラミングに関連して、デジタル技術を使ったAIやIoTを思い浮かべる人が多いことから、一般的に理系の学問というイメージを持たれているケースが多いのではないでしょうか。しかしながら、情報学は理系的な視点はもちろんのこと、文系的な視点からのアプローチも可能な学問なのです。だからこそ、近年では多くの大学において理系・文系問わず現代社会においてなくてはならない学問の一つとして、「情報」という言葉を冠した学部・学科が次々に誕生しているのです。こうした現状を踏まえ、次節からは理系・文系それぞれにとっての情報学について解説してゆきたいと考えます。
② 理系としての情報学
理系としての視点では、主に理工学部系統の学部・学科で学ぶことができ、大きく「情報工学」という分野としてカテゴライズされています。情報工学では、コンピュータ・通信・ネットワーク・情報処理を基礎として、ロボットやドローンなどのシステムやゲームアプリの開発などについて研究してゆきます。また、情報工学で近年最も発達している分野はAIに関する研究です。AIの分野の研究内容を身近に挙げるならば、自動車の自動運転技術が言えるでしょう。この他にも、Googleの検索エンジンやYouTubeの「あなたへのおすすめ」などのレコメンド機能、AIスピーカーなどに対してAI技術が活用されています。
基本的には情報工学を学ぶにあたっては、様々な基礎実験を通じて力学・電磁気学・電子工学への理解を深め、実験結果の解析手法のレポートを作成することを通じることで、教養を高めてゆきます。学年を重ねると、実習授業にてシステムの構築や画像の補正、機械翻訳やプログラミング環境の試作などを行った上でデータを処理し、その過程や結果をレポート・論文として成果をまとめてゆきます。
情報工学の道に進んだ場合、将来的な進路としてソフトウェア開発者やシステムエンジニア、プログラマーなどを志すことが多いです。そのため、就職先としてIT関連産業やソフトウェア、システム開発企業、電気、電子部品メーカーの開発部門などが挙げられます。このほか、情報通信業界やITコンサルティング業界などへの就職も候補となります。さらには、こうした技術と知識を活かした研究職への就職や起業をする人もいます。
③ 文系としての情報学
続いて、文系的な視点からの情報学についての学びについて考えてゆきます。理系的視点からは「開発」に重きが置かれていますが、文系的な視点では「メディアリテラシー」に重きが置かれます。「メディアリテラシー」とは、世の中にあふれている多くの情報から必要な情報を引き出し、その真偽を見抜いて活用する能力のことで、高度な情報化社会で必要な能力とされています。こうした観点から、文系的な視点からは情報学は、主に現代社会の中での情報技術の役割や、マスコミュニケーションにおける情報メディアの役割、国境を越えての情報コミュニケーションの進化などを研究テーマに掲げて研究されているのです。そのため、「技術としての情報」を学ぶ理系と比較して、文系では「教養としての情報」について学ぶ色が濃いと考えてください。
文系としての情報学を学んだ学生の将来的な進路としては、情報通信系企業の企業を筆頭に、放送や広告といったマスコミ関連の企業や、業界を問わず企業の総合職、広報・調査部門への就職が中心となります。また、クリエイターとして新規サービスやコンテンツ制作などの分野に進む道もあり、WEBサイトの設計やWEBデザイン、アプリ開発やゲームプログラマーなどに関連する企業に就職する道もあります。こうしたクリエイターとして活躍する人は学んだ知識やスキルを生かし、自らコンテンツやサービスを立ち上げて起業する人もいます。
(2)情報学を学ぶためには
① 高校生のうちに学んでおくべきこと
情報学を学ぶためには、高校生のうちにどのような知識・能力を身に着けておく必要があるのでしょうか。情報学においては、理系でも文系でも大量の情報を収集・分析することになります。こうした観点から、情報学を学ぶにあたっては非常に「数学」の知識を必要とする場合が多いのです。そのため、「数学」の知識は必須であると考えて良いでしょう。
② どんな人に向いている?
情報学を学ぶにあたっては、非常に多くのデータと相対することになります。また、ほかの学問と比較してもコンピュータに触れる時間は圧倒的に多くなります。また、情報学にまつわる技術は目まぐるしく進化を遂げています。このことから、情報学を専門分野として学んでゆくにあたっては、最先端の技術に興味があり、ニュースや流行など社会の動きに常に敏感であることが求められます。また、情報の収集・分析をおこなうにあたっては黙々とコンピュータに向かう機会が多いことから、一人でコツコツと作業するのが好きという人に特性があると考えられます。
おわりに.
情報学は、理系・文系を問わず情報技術の進化が著しい現代において、今後ますます市場規模は拡大すると予想できる学問です。そのため、情報学の知識や技術をもった人材の必要性はさらに高まっていくものと考えられることから、就職などの将来性が非常に見込まれる学問です。さらに、情報学は非常に領域の広い学問でもあるため、学びたい専門分野が定まっていないという人にとっても、大学への入学後に自分の方向性を選択できるという利点もあります。
実際、新卒で就職した時点で専門性の高いスキルを持ち合わせている情報系の学生は、今の社会において非常に必要とされています。なぜならば、現在働いている社会人には、情報系のスキルを持ち合わせている人がそう多くはないためです。その分野を扱う企業でない限りは外部からのアドバイスを求める必要や、新たに人材を育成する必要があるのです。そのため、多くの企業では情報学を大学で専門的に学んだ学生を採用したいと考えています。
本稿では、大学で学ぶ情報学の内容に加え、情報学を学んだ学生の見込まれる進路や社会的価値について解説してまいりました。情報学はまだまだ発展途上の将来性の高い学問であります。今自分の進路について迷いや悩みがある人で、もし本稿を読んで情報学に興味を持ったならば是非自分の興味ある情報系の学問について一度調べてみてはいかがでしょうか。