はじめに.
高校受験の際における志望校の選択肢は埼玉県内でかつ、しかも最寄駅から遠くても1時間程度の範囲内から選択することが多いのではないでしょうか。しかしながら、大学入試における志望校の選択肢は埼玉県内のみならず、東京都をはじめとする他の都道府県も選択肢となってゆきます。こうした広い範囲から大学を選ばなければならないなかで、東京都と埼玉県を合わせただけでも170校を超える大学があり、さらに大学によって学ぶことができる内容も大学によって千差万別となっています。
高校生がこのように膨大な数の中から志望校を一つに絞ることは容易ではなく、時間をかけて情報収集をしなければ、第一志望校を絞り込むことはなかなか難しいでしょう。第一志望の大学を絞り込むためには、その人が大学で学びたいことや研究設備、大学のレベル(偏差値)、大学の立地・環境など様々な観点から総合的に決定してゆく必要があります。しかしながら、第一志望校が決まらない以上はなかなか受験勉強にも取り掛かることができないものです。
そのようななかで、筆者がよく見かけるのは「とりあえず埼玉大学を目指してみたい。」という言葉です。埼玉県内唯一の国立大学である埼玉大学は県内でも知名度が高く、国立大学というブランドがあるということから「まずは目標にしてみたい」と考える高校生は多いようです。しかしながら、特別な理由がないまま「とりあえず目指してみたい」というだけで志望校に設定して闇雲に勉強をスタートしてしまうケースも少なくありません。
そこで本稿では、県内唯一の国立大学である埼玉大学にスポットを当てて、埼玉大学がどのような大学であるのか解説してゆきたいと考えています。「なんとなく」で志望校にしてしまいがちな埼玉大学ですが、本当に自分が目指すべき大学であるのか、考えるための一助となれば幸いです。
埼玉大学ってどんな大学?
(1) 埼玉大学の概要
① 埼玉大学って?
埼玉大学は埼玉県さいたま市に所在する、埼玉県内唯一の国立大学です。1949年に旧制の浦和高等学校と埼玉師範学校を母体に設立され、現在は5学部・3大学院研究科で構成されています。全学部・研究科が同じキャンパスで学ぶ総合大学となっており、一つのキャンパスに全ての学部が集うからこその「All in One Campus」を強みとしています。所属学部だけではなく、他学部のさまざまな専門を持つ教員や学生とコミュニケーションが取りやすく、幅広い知識の修得が可能なっていることに加え、多様な人間関係を通じて成長を遂げてゆくうえでは、非常に良い環境と言えるでしょう。
また、グローバル化にともなって世界に開かれた大学として国際交流を推進しており、現在は約170もの海外の大学と交換留学を行っています。さらに、国際社会で活躍する人材育成を目的としたGY(グローバル・ユース)プログラム、経済学部におけるGTP(グローバル・タレント・プログラム)など、さまざまなプログラムを用意して在学生の交換留学を支援しています。
② キャンパスの位置・交通案内
埼玉大学の所在地は「埼玉県さいたま市桜区下大久保255」となっており、さいたま市の南西部に位置しています。さいたま市桜区は住宅地として発展している地域であることから、県庁所在地であるさいたま市のなかでも比較的落ち着いた環境の中にあると言えるでしょう。ただし、キャンパスは最寄りの駅からはやや離れた位置にあるため、アクセスには最寄駅からの路線バス利用が不可欠となります。アクセスは主に以下の3つの方法となるでしょう。
・JR京浜東北線「北浦和駅」西口下車→国際興業バス(15~20分、終点下車)
・JR埼京線「南与野駅」西口下車→国際興業バス(15~20分、「埼玉大学」下車)
※南与野駅の西口から発車するバスは、全てのバスが「埼玉大学」バス停に停車します。・東武東上線「志木駅」東口下車→国際興業バス「南与野駅西口」ゆき(30~35分、「埼玉大学」下車)
(2) 埼玉大学の学部・学科
埼玉大学は5学部(教養学部・教育学部・経済学部・理学部・工学部)を有しており、それぞれの学部でアドミッションポリシー(入学者受け入れ方針)を設定して教育活動を行っています。おおまかではありますが、各学科のアドミッションポリシーを参考にしながら、各学部・学科で学ぶことができる内容について紹介してゆきます。
① 教養学部
教養学部は、5専修(グローバル・ガバナンス専修・現代社会専修・哲学歴史専修・ヨーロッパ・アメリカ文化専修・日本・アジア文化専修)より構成され、1年次には専修課程には属さずに広く入門的授業を履修し、2年次から自ら選んだ専修課程と専攻で専門的な学修を進めます。人文学・社会科学の伝統・成果の継承と、多様な文化や価値観の理解を深めるための教育・研究を行っています。自ら問題を設定し解決する能力と、国内外の人々との的確なコミュニケーション能力を身につけて現代の諸問題に適切に対処し、解決の展望を切り拓ける人材の育成を目標としています。
② 教育学部
教育学部は、幼稚園(認定こども園を含む)・小学校・中学校・高等学校・特別支援学校など、様々な学校で活躍する教員を育成するための学部です。それぞれの養成目標に特化したカリキュラムが準備されており、確かな学力を有した力量ある質の高い教員を育成することを目標としています。そのために各課程・コース・専修・分野で行われる授業(講義・実技・演習など)で、各専門分野と教職についての内容を学習します。学習した内容を基礎にして実際の教育現場で教育実習を行い、大学での学問的な学びと学校現場での実践経験を往還的に積み重ねることで、教育現場において数々の課題に取り組むことのできる教員を育成することを目標としています。
③ 経済学部
経済学部は、経済学科を基に編成された4メジャー(経済分析・国際ビジネスと社会発展・経営イノベーション・法と公共政策)のもと、自ら問題を発見・解決し、自らの教養と専門的知見をふまえた社会へ積極的に意見を発信できる人材の育成を目指しています。1年次終了時に所属するメジャーを選択し、2年次からは必修科目・選択必修科目・演習(ゼミ)・ 卒業研究が配置されており、それぞれの専門科目について段階を追って勉強してゆきます。また、グローバル化に対応するため、すべてのメジャーに共通の選択科目として英語による「日本研究」科目が用意されているほか、グローバルな能力を徹底して身につけたい人のためのグローバル・タレント・プログラムも設置されています。
④ 理学部
理学部では、5学科(数学科・物理学科・基礎化学科・分子生物学科・生体制御学科)が設置されており、自らが専攻する専門分野を基礎から応用へ向けて段階的に学び、専門知識と思考力・探求力・問題発見及び解決力を修得・獲得することを目指しています。また、学生が専攻する専門分野を超えて、広く自然科学分野の知識と思考力を修得し、加えて人文学・社会科学・現代テクノロジ一分野についても幅広い基本的知識を身につけ、自らが修得した知識を活用できる汎用的な能力や国内外の人々とのコミュニケーション能力を身につけた人材を育成することを目指しています。
⑤ 工学部
工学部は、5学科(機械工学科・システムデザイン学科・電気電子物理工学科・情報工学科・応用化学科・環境社会デザイン学科)で構成されており、自然科学・人文科学・社会科学等に対する幅広い教養と知識を有し、専門分野における十分な知識と能力を備え、次代の我が国及び世界の産業社会を担う優れた技術者を蓑成することを目的としています。また、専門教育において修得した基礎的な知識・能力を活かして大学院に進学し、高度技術者・研究者への道を歩むための能力を身に付けるとともに、豊かな教養と社会的責任を自覚できる倫理観を有し、実践的な企画・立案ができる人材を育てることを目指しています。
(3) 埼玉大学のレベル
埼玉大学は国立大学であるため、全ての学部・学科の入試においても共通テストで「5教科7~8科目」の受験が必要となります。また、2023年度においての高校2年生からは「情報Ⅰ」が加わり、「5教科8~9科目」となります。「5教科7~8科目」のモデルは以下を参考にしてください。また、埼玉大学の入試レベルについても紹介してゆきます。
表①:国公立大学の理系・文系別科目選択パターン(2025年度入試から情報Ⅰも必須化)
表②:埼玉大学の共通テスト必要得点率と二次試験偏差値(河合塾データより)
このように学科にもよりますが、埼玉大学の合格圏にたどり着くためには、教育学部の技能科目専修を除き共通テストで「6割~7割」程度を獲得する必要があるのです。また、二次試験でも偏差値55前後の実力が求められ、この数値は「日東駒専」と呼ばれる中堅私立大学程度以上の数値となります。
しかも、私立大学受験とは違い3科目ではなく「5教科7~8科目」の受験が必須であることから、かなりの勉強量が必要です(共通テストの平均点は概ね5~6割程度)。そのため、埼玉大学を志望する場合ならば、並大抵の勉強量では足りません。勉強すべき科目数が多いため、学力にもよりますが遅くとも高校2年生の2学期あたりからは受験勉強へ本格的に取り組まないと勉強時間・量ともに厳しいと言われています。
おわりに.
本稿では、埼玉大学にスポットを当てて埼玉大学がどのような大学なのか、そして埼玉大学で学べることと大学入試におけるレベルについて解説してまいりました。埼玉大学は総合大学としてさまざまな学部・学科を有していて、魅力的なキャンパス・設備・カリキュラム・支援体制が整備されている素敵な大学だと考えます。
その一方、入学するためには共通テストで5教科をまんべんなく学習して十分な得点力を身につけなければならないこと、そして二次試験にも対応できる実力も必要になります。一言でいうと、国立大学に合格することは想像以上に難しいことなのです。国公立大学のみならず難関私立大学においても、こうした困難を乗り越えた受験生こそが、春に笑顔で志望校の門をくぐることができるでしょう。
話が逸れてしまいましたが、いかがだったでしょうか。本稿を読んでいただいた皆さんが、埼玉大学はもちろんのこと、志望校についてさまざまな大学を調べてみるきっかけになれば幸いです。大学受験は情報戦です。たくさん調べて、自分にとって最適な選択肢を選べるように準備をしましょう。