【3月 教育支援通信】 アウトプット勉強法

はじめに.

 覚えることって難しいですよね。「一生懸命、漢字や英単語、歴史の年号を覚えたはずなのに、全く暗記できていなかった・・・」、という経験をした読者の方も多いのではないでしょうか。実は覚えられない原因の一つとして、脳の性質にあるのです。皆さんは何かを覚えようとするとき、どのような方法をとっているでしょう。もしかしたら、教科書や参考書を「見る」「読む」だけといった方も居るかと考えます。物事を覚えるために、入力(インプット)として「見る」「読む」という手段は決して間違いではないですが、このインプットだけでは、脳は記憶に留めてくれません。なぜなら、インプットは出力(アウトプット)のためにあるからです。脳はインプットされた情報よりもアウトプットされた情報をより強く記憶しようとする「出力依存症」であるため、アウトプットをしないとなかなか記憶として定着しないのです

 では、アウトプットにはどのような方法があるのでしょうか。まず、最も考えられるのが「書く」ことです。「書いて覚えなさい!」という指導を受けた経験がある方は多いかと考えますが、まったく「書く」という手段は理にかなった勉強方法であり、身近に実践できるアウトプットです。「書く」こと以外にも、アウトプットの方法には「音読する」「人に教える」など、たくさんあります。本稿では、生徒の皆さんはもちろんのこと、社会人である保護者の方々にまで活用できる、アウトプットの方法について解説してゆきます。アウトプットをフルで活用して、勉強の成果を大幅に向上させましょう!

アウトプット思考

(1) アウトプットとは

① アウトプットとインプット

 インプットが「読む」「聞く」ことに対して、アウトプットは「書く」「話す」、そして「行動する」です。インプットをひたすらこなしても、記憶に残る量は少ないということは既に解説しました。では、アウトプットとインプットにベストなバランスはあるのでしょうか。実は、最も効果的とされる「アウトプット:インプット」の平均的な比率は「7:3」であると言われています。これは、コロンビア大学で行われた実験によって明らかにされた結果であり、人間が思うように記憶に定着できないのはインプットが過剰になりがちで、アウトプットが不足している状況が多いという裏付けにもなるでしょう。

 本稿を執筆する上で参考にした書籍の一つ『学びを結果に変える アウトプット大全』の筆者である樺沢紫苑氏も「インプットは『自己満足』にすぎない。『自己成長』はアウトプットの量にこそ比例する」と述べており、いかにアウトプットの量をこなすことが重要なのか、わかると思います。

② アウトプットと脳の関係

 では、改めてアウトプットと脳の関係について考えてゆきたいと思います。ご存知の方も居るかとは思いますが、脳にインプットされた情報は「海馬」という部位に2~4週間仮保存されます。その仮保存された期間に「海馬」へインプットされた情報が何度も使用されることで「重要な情報」となり、「側頭葉」という部位に移動することによって長期記憶となります。「海馬」にインプットされてから、概ね2週間で3回以上アウトプットされると、その情報は「側頭葉」へ移動されやすいと考えられていますから、「海馬」にインプットしてから2週間の過ごし方が記憶定着のための重要な期間として位置づけられます。

 また、アウトプットを行うにあたって記憶力向上へつながる要素に、「ドーパミン」という物質の存在があります。ドーパミンは自己報酬神経群の主な伝達物質、つまり「意欲」「運動」「快楽」に関係した「気持ちが良い」「心地良い」といった感覚を覚えると放出される物質なのです。ドーパミンが放出されることによって、脳回路が活性化されて記憶力が向上すると言われています。このドーパミンは主に目標達成によって放出される物質なので、達成感やごほうびなど満足ができたときに「気持ちが良い」などと感じるのは、このドーパミンが放出された証と言って良いでしょう。

 では、これよりアウトプットの手段である「書く」「話す」「行動する」の具体的内容について、このドーパミンとの関係についても触れながら解説を行ってゆきたいと思います。

(2) 「書く」

 何かを覚えようとするときに「書く」という動作は重要であると記しましたが、なぜ「書く」動作は覚えることに効果的なのでしょうか。答えは単純で、「書く」動作はただ本を読んだり授業を聞いたりするよりも、脳の多くの部位を働かせるためです。具体的に、下の表をご覧ください。

 このように、「読む」だけではなく「書く」動作を加えるだけで脳に多くの刺激を与え、記憶の定着が促進されます。特に、単語練習や参考書を読んだあとすぐに問題集に取り掛かるというような、インプットした情報を即座にアウトプットするといったことは、脳の回路が起動されて思考が活性化された状態になるため、効果が高い勉強方法です。もちろん、手書きが最も効果的な方法となりますが、手書き以外の「書く」方法として、キーボードのブラインドタッチやスマートフォンのフリックタッチによる入力も手書きと同じような効果があると言われています。これはなぜかと言うと、ブラインドタッチもフリック入力も細かい作業を素早くこなすことになるので、運動野や感覚野、小脳まで多くの部位が働くことになるためです。そのため、ブラインドタッチで英単語を繰り返し入力して練習することも、手が単語を覚えていくことになるので、手書きと同じような効果を得られるのです。

 また、授業中やミーティングの時、メモを取ることも「書く」動作にあたるため、アウトプットとして効果的な手段です。ただし、授業中に先生の言ったことを闇雲に一字一句正確にメモする必要はありません。メモをする際のポイントは、「アウトプットを意識しながらメモを取る」こと、つまり自分が重要だと感じた箇所をピンポイントでメモを残すことなのです。脳は重要だと感じた情報ほど長期記憶として保存しようとするため、話の要点が何なのかを考えながらメモを取ることはアウトプットの手段として効果的なものになるのです。

 このように、「書く」動作は記憶を残すために最も脳を刺激する方法であるため、書くことによって脳を活性化させ、記憶力や学習能力を高めることができます。「なかなか覚えられないよ!」という皆さんは、是非面倒くさがらずに「書く」動作をしてみてください。

(3) 「話す」

 「書く」ことのほか、「話す」という行為も脳を活性化させ、情報を記憶として定着させる効果があります。「書く」ことは面倒くささがありますが、「話す」という行為は手軽で最も簡単なアウトプットの手段です。「アウトプットがどうしても苦手だ」という方は、まず「話す」ことから始めると良いでしょう。最も「話す」行為で身近にできるのが会話だと思います。最初に、会話で得られるアウトプットの効果について紹介してゆきます。それでは、会話によって刺激される脳の部位について具体的に見てみましょう。会話でも脳の多くの部位が同時に刺激されていることがわかります。

 特に会話は相手がいるため、相手の返事や表情などのフィードバックを受けるため、より脳は刺激を受けて効果を発します。これに関連して、会話に感情を入れることは非常にアウトプットの効果を上げる要素になります。「うれしい」「楽しい」「苦しい」「悲しい」と言った喜怒哀楽がこもった会話は脳が「重要である」と判断するために、記憶に残りやすいのです。例として、学校の授業を挙げましょう。同じ内容でも、先生が感情を込めてダイナミックに話してくれる授業と、ただ教科書を読み上げるような単調な口調の授業では、どちらが記憶に残りやすいでしょうか。答えは明白ですよね。会話をするときはなるべく感情を込めて話しあうことによって、アウトプットの効果が高まるのです。

 ここまで記してきたのは雑談も含めた会話ですが、通常の会話以上にアウトプットの効果が期待できるのが「人に教えること」です。なぜならば、「人に教える」という行為は、教えるべきことを正確に相手へ伝えなければならないので、脳は情報を整理して伝えていことが正確に伝わるように動作するためです。人に教えることによって、脳は記憶の取捨選択を繰り返し、刺激されることによってアウトプットの効果が高まります。また、人に教えることで相手からの共感や理解を得られた場合、脳は快感を覚えます。「気持ちがいい」といった感覚を覚えると放出される物質を覚えていますか。そうです、先ほど説明した「ドーパミン」ですね。人に教えることは、時にドーパミンの放出が促進され、脳内が活性化されてさらにアウトプットの効果が高まるのです

 このように「話す」行為、特に「人に教える」ことは脳を活性化させて記憶力や学習能力を高めることができます。教える相手は友人でも家族でも誰でも良いと思います。もし、教える相手がその場に居ない場合は、一人で授業する「エア授業」でも効果は期待できます。仮に聞き手が居ない場合でも、伝えたいことを整理して声に発することは脳を刺激するからです。仲のいい友人と、お互いが勉強したことを教えあう機会を作ってみても良いかもしれませんね。

(4) 「行動する」

 さて、3つ目に紹介するアウトプットの方法が「行動する」です。この「行動する」は「話す」「書く」以外のすべてのアウトプットのための動作であると考えて貰って構いません。「行動する」と言っても範囲が広すぎてピンと来ませんよね。具体的な行動を2点ほど紹介してゆきたいと思います。

① 質問する・調べる

 教科書を読んだり授業を聞いたり、または読書をしていると疑問に感じる箇所が生まれることがあります。当然ですが、わからないことを放置して先に進むことは、勉強していて最も意味のない行為の一つです。そのため、皆さんはこの生じた疑問を解決するために他の参考書や辞書で調べたり、他の人に質問したりして、解決を試みると考えます。実は、疑問を抱き解決する一連の行動は、アウトプットの効果が高いとされているのです

 なぜなら、疑問が生じることは脳が「これは重要な情報なのかも知れない」と考えているため、脳が刺激されているからなのです。さらに、「スッキリした!」というような納得のゆく解決ができた場合、快感を覚えているためドーパミンが放出され、さらに脳が活性化して記憶の定着につながります。つまり、疑問を抱き納得のゆく解決ができた情報こそ、記憶に残りやすくなる効果が期待できるのです。そのため、勉強でも日常生活でも、疑問に感じたことを進んで調べて解決することは記憶の定着につながるので、アウトプットの効果を高め記憶を定着させるための行動として有効なのです。

② 少し高めの目標設定をする

 勉強でも仕事でも、取り掛かる前に目標設定から始めるケースは珍しくないと思います。実は、この目標設定がアウトプットの効果を高めるために、一つカギになる行動なのです。例えば、テストで30点しか取ったことがない人が、「次回のテストでは95点を取るぞ!」と言ってもピンとこないですよね。むしろ、その人にとっていきなり30点から95点を目指すという目標が膨大すぎて、途中で挫折してしまうかもしれません。このように、無茶と思われるような目標設定はストレスがかかってしまい、脳が委縮してしまうため、かえって学習効率が悪くなってしまうのです

 では、適切な目標設定とはどのようなものなのでしょうか。アウトプットの効果を高める目標設定はとは、「目標を細分化し、少し高めの設定」であると言われています。先ほどの例で例えるならば、いきなり90点という目標を掲げるのではなく、「成績を上げるため、毎日1時間勉強しよう」「今日は5単語覚えられたから、明日は7単語覚えよう」などと、スモールステップで目標を掲げ、その目標をクリアしたらまた次の目標を作る、この繰り返しこそが脳の働きを活性化させるのです

 また、ある程度の目標をクリアできたら「自分へのごほうび」を用意することも、ドーパミンの放出を促進させるため、アウトプットの効果を高め記憶により残るようになります

おわりに.

 本稿では、「アウトプット思考」というテーマで、アウトプットの有用さについて解説をしてまいりました。この文章を読んで、インプット以上にアウトプットが重要であることを理解していただけたならば、筆者にとってこれ以上にない喜びです。「覚えるのが苦手」「記憶力が無い」などと悩んでいる方が居りましたら、是非本稿で紹介したアウトプットの方法を実践してほしいと考えます。本稿では、生徒の皆さんにとっても、保護者の方々にとっても、すぐに実践できるアウトプットの方法を紹介しました。

 また、下に参考文献を掲載いたしましたので、さらにアウトプット思考について深めたい方はご参照ください。

【参考文献】
・樺沢紫苑『学びを結果に変える アウトプット大全』(サンクチュアリ出版)
・渡邊秀樹編集『最強のアウトプット勉強法』(白泉社、)